キャパンのネゴト

うまく働けない欠陥労働者が日々考えることと目指すもの

『忘れられた巨人』を読む / 没入...混濁...最期に放心

 

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

 

 

好きに本を読んで好きに感想を述べる、読書会を行っていた。

そのラストの本。

 

日本橋三越の中の品揃えの悪い本屋でグルグル廻って、

ノーベル賞という理由で平積みされたこの本を、読んでみた。

 

 

 

カズオ・イシグロ

初めてだけど、

さすがノーベル賞

 

 

 

7世紀辺りのグレートブリテン島が舞台の、ファンタジー寄りの長篇作。

忘却が常態化した大地で、老夫婦が旅をする物語だ。

 

 

細部の描写がとにかく鮮明で、

はじめの1ページだけですっかりその世界に没入する。

村上春樹の小説もそうだけど、たとえ時を置いて読んだとしても、

再びその世界観に引き込まれるまでに時間を要さない。

その表現力は凄まじい。

 

 

だから、寝る間も惜しんで移動の間も惜しんでハマってしまうことになる。

「次が気になる」気持ちが先走り、

いつ何時も手元に置いて食い入るように読むときの精神は、

もう混濁を極めている。

ただそれだけを求め、気持ちの整理がつかぬままに読み進める。

中毒のようなものだ。

  

 

ノーベル賞に値するかどうかとかはわからないが、

良い作品は終わり方が秀逸だ。

ボワワワワンと余韻が残る中で放心状態になるような。

グレーな部分もあるんだけど、

むしろその曖昧さによって作品を、

作品の終わりのあとまで楽しむことができる。

 

 

没入と混濁と放心を与えてくれる本。

忘却は、確かに正義な一面もあるが、

結局、世界は意識と無意識から作られてる。

いつの間にか忘却に、無意識の世界に行ってしまった

おれの意識もあったかもしれないと思うと

ちょっと怖い。